Bmi-1による造血幹細胞制御において重要な標的遺伝子がCdkn2a(Ink4a/Arf)遺伝子座であり、異なる読み枠から翻訳されるp16^<Ink4a>とp19^<Arf>の2つの蛋白をコードしている。これらの遺伝子はBmi-1により発現が抑制的に制御されており、Bmi-1遺伝子欠損マウスにおいては著明な発現の亢進がみられる。主な機能として、Rb、p53の経路を介した細胞周期やアポトーシスの制御が有名である。本研究において、Bmi-1欠損マウスにおける造血幹細胞の長期骨髄再構築能、in vitroでの増殖・分化能はInk4aとArf遺伝子の両方を欠損した場合(Bmi-1^<-/->Ink4a-Arf^<-/->)においてほぼ正常に回復し、Bmi-1によるInk4a/Arf遺伝子の発現抑制が造血幹細胞の自己複製能の維持に必須であることが確認された。Ink4a/Arfの発現亢進は細胞周期進行の抑制、アポトーシスの亢進に加え、細胞老化(cellular senescence)にも関与する。Bmi-1欠損造血幹細胞を培養した際に、細胞老化の特徴である細胞の肥大化や、そのマーカーであるsenescence-associated b-galactocidase (SA-b-gal)陽性細胞の著明な増加が認められ、これはInk4a/Arfの欠損によって回復した。したがって、Bmi-1の欠損により造血幹細胞の細胞老化(premature senescence)が誘導される可能性が強く示唆され、さらなる解析を進行中である。 また、Bmi-1に会合する分子としてDmap1を同定した。Dmap1はBmi-1標的遺伝子座の多くでBmi-1依存性にリクルートされ、Bmi-1と協調して遺伝子発現の抑制に関与するものと考えられる。実際に、Hox遺伝子の多くはDmap1ノックダウンにおいて発現抑制が解除されることを確認した。Bmi-1による遺伝子発現抑制にどのようにDmap1が関与するのか、また、造血幹細胞機能にどのように関わるのか、解析を継続している。
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