結核の再興が社会問題化し、現行のBCGワクチンに替わる新しい抗結核ワクチンの開発が望まれている。研究代表者は、結核菌の宿主細胞である活性化マクロファージや樹状細胞がグループ1CD1分子(CD1a、CD1b、CD1c)を発現すること、さらにこれらのCD1分子が結核菌由来脂質を結合し、それらを特異的に認識するキラーT細胞を活性化する能力を有することに着目し、結核菌脂質の生合成と免疫認識機構の解明を通して、脂質をベースにした新しい抗結核ワクチンを開拓する研究を展開した。まず結核菌などの抗酸菌は、感染の成立に伴い、既存のミコール酸転移酵素とその基質(トレハロースモノミコール酸)ならびに宿主由来のグルコースを利用して、グルコースモノミコール酸を生成することを見いだした。さらに、感染に伴って新たに産生されたグルコースモノミコール酸を標的にしたCD1b依存性の宿主防御免疫応答が惹起されることを実証した。一方、優れたワクチンの開発にはそれに適した動物モデルの開発が必須との考えから、アカゲザルのCD1遺伝子の同定ならびに遺伝子産物の機能解析を行った。その結果、アカゲザルはヒトと同様のCD1システムを有するとともに、アカゲザルCD1b分子は結核菌脂質を結合し、それに特異的なヒトT細胞を活性化できることを明らかにした。以上の研究から、脂質をベースにした新たな抗結核ワクチン開発の基盤が確立された。
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