研究概要 |
大脳皮質を形成する神経前駆細胞の細胞周期調節機構に、エピジェネティクス機構、特にクロマチン構造を制御するヒストン脱アセチル化酵素が果たす役割を解明する。本年度以下の解析を行った。 方法 1.妊娠10-16日目の胎児前脳背内側を分離し、神経前駆細胞の核抽出液を調整した。抗アセチル化ヒストン抗体でウエスタンプロットを行ないヒストンのアセチル化状態を確認した。 2.上記調整サンプルと種々の抗アセチル化ヒストン抗体でクロマチン免疫沈降を行い、沈降したDNAとサイクリン依存性キナーゼ抑制遺伝子(CDKI)のプロモーター領域に対してデザインしたプライマーを用いてPCRを行った。 3.ヒストンのアセチル化を修飾するhistone deacetylase (HDAC1,2,3,4,5,6,8)、Sirt1に対するウエスタンプロット解析を行った。 結果 1.大脳皮質発生が進むに従いアセチル化ヒストンH3 lys9が増加した。その他既知のH3アセチル部位lys14,lys27,lys23、H4アセチル化部位lys5,lys8,lys16は不変であった。 2.神経前駆細胞の分裂が進むに従いCDKI (p27Kip1,p57Kip2,p21Cip1,p161NK4a, p18INK4c)のプロモーター領域がヒストンH3 lys9のアセチル化により開放された。 3.神経前駆細胞の分裂が進むに従い核内脱アセチル化酵素Sirt1のみ減少した。 考察 Sirt1はNAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素Sir2のマウスホモログ蛋白質であり、酵母のカロリー制限下での寿命延長に重要な役割を果たしていることが知られている(lmai et al.,2000)。またSirt1欠損マウスでは大脳発生に異常をきたす(Cheng et al.,2003)。我々が行った予備実験ではSirt1をPC12細胞において強制発現すると、アセチル化ヒストンH3 lys9が減少することを確認した。以上から神経前駆細胞の細胞周期が進むにつれてSirt1の発現量が減少し、その結果アセチル化ヒストンH3 lys9が減少、CDKIのプロモーターが解放される可能性がある。Sirt1の神経前駆細胞のCDKI発現調節機構について今後in vivoでの解析を進める予定である。
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