ファブリー病の責任酵素であるα-ガラクトシダーゼ(GLA)との相同性が極めて高いα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(NAGA)の基質認識部位の構造を変えることにより、GLAの活性を持たせることが出来ないか検討した。プロテインデータバンク(PDB)に登録されている、ニワトリのNAGAとその阻害剤との複合体の結晶構造情報(ID:1KTC)を基に、ホモロジーモデリングで、ヒトのNAGAの立体構造モデルを構築した。この構造モデルとヒトのGLAの結晶構造情報とを比較し、互いの酵素蛋白質の基質特異性を決定するアミノ酸残基を特定した。さらにNAGAにおけるα-N-アセチルガラクトサミン残基を持つ糖複合体の認識に関係するアミノ酸残基を、α-ガラクトース残基を持つ糖複合体を認識するためのアミノ酸残基に置換するための候補を、in silicoで解析した。その結果、NAGAにおける特定の2つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することが妥当という結論を得た。これらの2アミノ酸残基を置換するように設計した改変NAGAcDNAを作製し、これをファブリー病患者由来の培養線維芽細胞に導入した。その結果、欠損していた細胞内GAL活性が回復し、GLA活性を持つ改変NAGAが発現したことが示された。 同様のストラテジーで、テイ-サックス病やザンドホッフ病の責任酵素であるβ-ヘキソサミニダーゼA(HexA)の活性を持つ改変β-ヘキソサミニダーゼB(HexB)の作出を試みた。β-ヘキソサミニダーゼのβサブユニットとαサブユニットの立体構造情報を基に、それぞれの基質特異性を決定するアミノ酸残基を特定し、置換アミノ酸残基候補をin silicoで解析した。その結果、特定の2アミノ酸残基とGM2活性化蛋白質との結合に関係する領域の4アミノ酸残基とを置換することが適当と考えられた。今後、発現実験でその妥当性を証明する予定である。 構造生物学を利用した新規高機能酵素の創出は、リソソーム病の酵素補充療法に応用可能と考えられる。
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