α-ガラクトシダーゼ(GLA)と立体構造が似ているが、その基質特異性が異なるα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(NAGA)の分子内部のアミノ酸を置換することにより、GLAとしての基質特異性を持つ改変型NAGAを分子設計し、その酵素蛋白質をチャイニーズハムスター卵巣由来の細胞(CHO細胞)で発現した。この発現酵素蛋白質は、野生型GLAの人工蛍光基質を分解する活性を有し、中性および酸性の緩衡液中や血液内で安定であった。また、細胞内取り込みに重要な糖鎖のマンノース6-リン酸残基を多く含有していた。この改変型NAGAを、ファブリー病患者由来の培養線維芽細胞の培養液中に添加したところ、欠損していた細胞内GLA活性が回復し、細胞内に蓄積していたセラミドトリヘキソシド(CTH)の分解が確認された。また、改変型NAGAをファブリー病モデルマウスの尾静脈から投与したところ、肝臓、腎臓および心臓などの臓器のGLA活性の著明な増加が認められた。これらの結果から、分子設計により作られた改変型NAGAが、新規のファブリー病治療薬として有望であると考えられた。 これと同様の方法で、ヘキソサミニダーゼA(HexA)のアイソザイムであるヘキソサミニダーゼB(HexB)の分子内部のアミノ酸を置換することにより、HexAとしての基質特異性を持つ改変型HexBを分子設計し、CHO細胞で発現した。この改変型HexBは、GM2ガングリオシドーシス患者由来の培養線維芽細胞に取り込まれ、細胞内に蓄積していたGM2ガングリオシドを分解した。改変型HexBは、GM2ガングリオシドーシスに対する新規の酵素補充治療用治療薬となる可能性があると考えられた。
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