研究概要 |
周産期における脳障害の主たる病態の一つは、種々の原因による脳室周囲白質軟化症の発生であり、脳室周囲に存在するオリゴデンドロサイト前駆細胞の傷害であるとされている。オリゴデンドロサイト前駆細胞を再生させることにより周産期における脳傷害の発生を予防するを長期的な目標として、本研究においては、オリゴデンドロサイト前駆細胞の再生を促進あるいは抑制にかかわる因子を見出し、その調節メカニズムを明らかにすることを目的としている。これまでの研究により、低温刺激がオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進させることを明らかにするとともに、低温条件下と37度で培養したオリゴデンドロサイトのDNAマイクロブレイを行い、大きな変化が見られる遺伝子群を明らかにした。さらに、その中の一つGα13に注目し、検討を行った結果、低温刺激の増殖促進効果に細胞膜上におけるVDACが関与している可能性があること示した。本年度は、Gα13及びVDACを介する細胞内情報伝達系について、低温刺激によるオリゴデンドロサイト前駆細胞増殖に関する経路を明らかとするために、情報伝達経路の各因子のinhibitorを培養系に添加し増殖能への影響を検討した。その結果、低温刺激によるオリゴデンドロサイト前駆細胞内ではGα13の下流にあるRac/Cdc42,MAPキナーゼのERKや核内シグナル蛋白であるRbのリン酸化が促進されていることが確認された。さらに、Gα13は37度ではVDACと会合しているが、低温では解離すること、VDAC inhibitorのG3139の添加により37度で著しい細胞増殖を認めることから、オリゴデンドロサイト前駆細胞ではVDACが低温で構造変化を起こし、VDAC→Gα13→Rac/Cdc42→MAPK→cyclin Dのようにシグナルが核内に伝達され、増殖を促していることが示唆された。
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