研究概要 |
統合失調症と気分障害における社会的認知障害の脳基盤を解明することを目的として,人間の社会性の基盤をなす言語に注目してその流暢性を課題に用い,頭部用の多チャンネル近赤外線スペクトロスコピィ(NIRS)装置により前頭葉機能の賦活反応性を統合失調症、大うつ病、双極性障害で検討した。(1)頭皮上のNIRS測定チャンネル位置と標準脳における脳回との対応を確立し,fMRIやPETではアーチファクトのために測定の信頼性が低いとされる前頭極部frontal pole(Brodmann10野)についてNIRSの測定が可能であるという利点を明らかにした。(2)時間分解能が高いというNIRSの特徴を生かして,前頭葉の賦活反応性の時間経過に「課題区間における累積的な漸増」という特徴があることを明らかにした(Neurosci Res 58:297,2007)。(3)健常者において前頭極部の賦活反応性が自覚的な軽度の眠気と負の相関をすることを示し,高次脳機能の軽度の変化がNIRSデータに反映されることを明らかにした(Neurosci Res 60:319,2008)。(4)統合失調症においては,課題初期の賦活反応性が乏しく,課題区間における前頭葉賦活が小さく,課題終了後の前頭葉賦活が過剰であるという特徴を認め,これらの所見が精神機能の全般的評価global assessment of functioning(GAF)得点と正の相関を示した(Schizophr Res,in press)。(5)同一の被検者を複数回測定した縦断的検討においては,前頭極部の賦活反応性が統合失調症と双極性障害においては精神科的状態像に応じて変化を示すのに対して,大うつ病においては病状による変化を認めなかった。(6)以上より,前頭極部の賦活反応性の障害が統合失調症や気分障害の社会的認知障害の背景たあることが示唆された。
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