間葉系幹細胞は、骨髄や臍帯血中にごくわずかに存在する未分化の細胞で、増殖能と共に骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、脂肪細胞等への分化能を有している。さらに、造血幹細胞の造血を支持・促進し、造血幹細胞移植時に生着促進・生着不全防止を目的に間葉系幹細胞の同時移植が行われ効果を上げている。一方、造血・免疫システムは放射線や抗がん剤に対し極めて感受性が高いため、放射線や抗がん剤によるがん治療における副作用としてしばしば骨髄抑制が生じ、治療上のdose limiting factorとなっている。本研究では、放射線曝露が予想される場合や、放射線造血障害状態に陥った個体自身の造血幹細胞から、造血幹・前駆細胞の再生を想定して、間葉系幹細胞を用いた新たな細胞治療方法の開発を目的として研究を開始した。 放射線非照射及び照射ヒトCD34陽性細胞(造血幹・前駆細胞)を臍帯血由来間葉系幹細胞様ストローマ細胞と共培養することにより、サイトカイン単独での培養に比べ有意に高い細胞増殖及び未分化維持といった造血支持能が示された。サイトカインを共培養開始16時間後に添加すると、照射細胞はストローマ非存在下培養では著しく造血が低下したが、共培養では同時添加した場合と同等の造血が認められた。この時、共培養上清中のビアルロン酸は顕著に増加し、一方硫酸化グリコサミノグリカンはストローマ非存在下放射線照射細胞単独培養で有意に増加した。同様に幾つかのサイトカイン産生も放射線照射細胞単独培養で増加した。以上の結果から、間葉系幹細胞様ストローマ細胞は放射線曝露ヒト造血幹・前駆細胞の造血再生に有用であることが明らかとなった。この時、造血幹/前駆細胞とストローマ細胞との接触刺激が重要であると共に、細胞外マトリックス成分産生が大きく関与している可能性が示唆された。得られた成果の一部は生命科学の国際誌であるLife Sceincesに掲載された。
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