研究概要 |
ラジオアイソトープ(RI)標識抗体フラグメントやペプチドを用いるがんのRI治療は,優れた抗腫瘍効果を示す一方で,これら薬剤の腎集積のため重篤な腎障害を誘発する.この問題の解消は優れた抗がん剤の開発に直結することから,本研究では,酵素による代謝開裂特性を付与したペプチド標識薬剤の開発からこの問題の解消を行う.すなわち,腎刷子縁膜に存在する酵素の作用で抗体やペプチドから,放射性代謝物を速やかに遊離して尿中へ排泄する標識薬剤を設計,合成し,これによる腎臓の放射線障害の解消を目的とする.錯体の基本骨格として,金属RIであるイットリウム-90(^<90>Y)やインジウム-111(^<111>In)と安定な錯体を形成する1,4,7,10-tetraazacyclododecane tetraacetic acid (DOTA)を選択した.尿排泄性の放射性代謝物としてDOTAの一つの酢酸を4-methylbenzoylglycineに置換したD3B-Gを設計し,先ず,その合成法を検討した.そして,DOTAに三分子の酢酸エステルを収率良く導入する反応条件,DOTAの残りの二級アミノ基にbenzylbromideを収率良く結合する条件を明らかにし,D3G-Bの高収率合成法を確立した.腎刷子縁膜酵素によりD3B-Gが選択的に遊離される基質としてグリシルリジン,グリシルチロシン,グリシルグルタミン酸,グリシルアスパラギン酸を選択し,現在,これらの基質配列を有するD3B-G誘導体の合成を進めている.また,D3B-Gと^<111>Inとの反応を検討したところ,DOTA骨格へのベンジル基の導入は^<111>Inとの錯形成反応速度を予想以上に妨げることを認めた.今年度以降,腎刷子縁膜酵素により速やかな開裂を受ける基質構造の探索を行うと共に,^<111>Inとの錯形成反応に適したDOTA誘導体の設計,合成を行う計画である.
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