研究概要 |
ラジオアイソトープ標識抗体フラグメントやペプチドを用いた癌治療の有効性と安全性の向上には,腎集積の低減が必要である。本研究では,腎臓刷子縁膜酵素の作用で標識抗体から尿排泄性の放射性代謝物を遊離する標識薬剤の開発を検討した。刷子縁膜酵素の作用で抗体から遊離する金属RIキレートには、腎細胞へ取り込まれることなく速やかに尿中へ排泄を受ける性質が要求される。また,任意の比放射能の標識抗体の作製が可能であるよう低濃度においても金属RIと速やかに錯体を形成すること、血漿中において安定な錯体を維持する必要がある。本年度は,これらの要求を満たすインジウムー111(In)およびテクネチウムー99m(Tc)標識薬剤の検討を行った。 1,4,7,10-Tetraazacyclododecane tetraacetic acid(DOTA)の一つのアミノ基にベンジル基を導入した場合、生成するIn錯体の安定性の低下が観察された結果を受け、DOTAのアミノ基にフェネチル基を導入した。しかしこの場合も、In錯体の安定性は低減し、DOTAの骨格炭素の修飾から尿排泄性の高いIn錯体を開発することが本薬剤設計に不可欠であることを明らかにした。 従来汎用されるTc(V)に比べてTc(I)は加水分解等に対する高い安定性を有することから,比放射能の高いTc標識抗体の作製に有利と考えられる。Tc(I)に適したキレート試薬の検討から,ニコチン酸を基本構造とする数種の候補化合物を開発した。さらに,これらの化合物にglcyl-lysineやglycyl-tyrosine配列を導入した場合,ラット腎臓から調整した刷子縁膜小胞により,これらペプチド結合が速やかに開裂されることを認めた。20年度は最も優れた候補化合物を選択し,抗体フラグメント標識薬剤への応用を検討する。
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