研究概要 |
当初無菌マウスに常在腸内細菌叢を定着させる「通常化モデル」を用いて研究を行う予定であったが、無菌マウスの販売が中止され入手不可能となったため、大幅な研究計画の変更を余儀なくされた。そこで臨床検体(大腸)から腸管粘結膜に存在する平滑筋細胞に着目し、腸内細菌由来産物であるLPSやButyrateが腸管結膜平滑筋細胞に与える作用を研究することとした。臨床検体から大腸粘膜平滑筋細胞を分離培養し、LPS単独、Butyrate単独、LPS+butyrate刺激による平滑筋細胞の遺伝子発現の変化をArray法を用いて検討した。LPS単独刺激ではIL-8, CCL2, CXCL1などのサイトカイン遺伝子発現が亢進した。Butyrate単独刺激ではIL-8発現は用量依存性に亢進、CCL2, CXCL1発現は低濃度(0.5mM以下)でやや亢進するが高濃度(1mM以上)では低下することを見いだした。butyrateとLPSの共刺激を行うと、butyrate低濃度で(0.5mM以下)ではLPS単独刺激と比べていずれのサイトカイン産生もやや亢進するが、高濃度(1mM以上)では低下し、その程度はそれぞれのサイトカインで異なっていた。これらの遺伝子発現の変化は定量的PCR法やELISA法によっても確認された。これらの結果は、腸内細菌によって産生されるbutyrateがその濃度により双極性に腸管免疫反応に作用し粘膜防御・共存機構に働きかけることを示しており、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)の病態に関与する可能性が考えられる。さらに、LPSとButyrateの共刺激の結果から、腸内細菌は様々な物質を介して腸粘膜を構成する細胞に対して複雑に作用することを示唆しそおり、生体と腸内細菌の共存機構を解明するためにはこれらの複難な相互作用の研究が重要であると考えられる。これらの知見を発表するため、現在論文作成中である。
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