研究概要 |
本課題では,基幹的細胞シグナルWntの制御機構が破綻してがん化シグナルに変貌する仕組みと,このシグナル活性を修飾する分子・細胞メカニズムを解明する.想定される成果に基づいてβ-カテニンを中心とするがん化シグナルネットワークの概念を創出し,その帰結を癌細胞やがん腫の解析により具現化する. ヒト大腸癌の癌腫-宿主境界におけるβ-カテニン活性化が発がんから浸潤・転移の経路をリンクするWntがん化シグナルを誘発することをこれまでに実証した.そして,一昨年来の研究から,大腸癌ではユビキチンシステムに異常を認め,β-カテニンとそのE3ユビキチン連結酵素であるβ-TrCP発現のネガティヴフィードバック調節不全によりWntとNF-κB経路が交差応答し,がん細胞のアポトーシスを抑制し,浸潤や転移を促進することを明らかにした. これを受けて今年度は,Wntシグナル依存的なβ-TrCP mRNAの安定化に作用するβ-カテニン/Tcf複合体の新規転写標的CRD-BPを同定した.Wntシグナルに応答してCRD-BPが大腸癌で過剰発現する結果,c-mycやIGF-IIのmRNAを安定化することにより複数の細胞増殖経路(Wnt,NF-κB,c-Myc,IGF-II)を統括すると想定し,解析を進めている. GSK3βは正常細胞ではWntシグナルを抑制する一方,NF-κB細胞生存機構に必須である.Wntがん化シグナルネットワーク研究の一環として,細胞生存・増殖の調節破綻を本質とするがんにおける本酵素の機能に着目して解析した.その結果,GSK3βの異常発現や活性調節破綻が癌細胞の生存と増殖を維持・推進するという,従来は予測されていなかった「がん促進機能」を発見した.今年度は,GSK3β阻害の制がん効果をがん細胞から担がん個体で検証することにより,本酵素が消化器癌に共通の新しい治療標的であることを同定・実証した.
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