研究概要 |
基幹的細胞シグナルWntの調節機構が破綻してがん化シグナルに変貌する仕組みと,このシグナル活性を修飾する分子・細胞メカニズムを調べることにより,大腸がんの病態解明や診断・治療に有用な知見が得られると想定して研究を進め,その過程で我々は,本シグナルを中心とするがん化シグナルネットワークの概念を創出してきた.本研究ではこの概念に基づいて,大腸癌におけるβ-cateninシグナルの活性化制御,修飾のメカニズムと帰結を分子,癌細胞,癌腫および担がん個体レベルにわたって明らかにすることを目的とする.今年度の成果を以下に列記する. 1.β-cateninの検出に基づく大腸がん診断の試み (1)以前に実施された免疫化学療法の臨床試験(CIP)に登録された大腸癌症例を解析し,β-cateninの特異的活性化パターンが免疫療法剤(PSK)の感受性に影響することを明らかにした. (2)β-cateninの検出によるがんの血液診断の可能性を検討するために,組換えβ-catenin蛋白を作成し,抗β-catenin抗体を組み合わせて,ELISAによるβ-cateninの検出・定量法を作出した.これを用いて,健常人と大腸癌患者の血清検体におけるβ-catenin蛋白を測定し,その疾患マーカーとしての可能性や有用性を検討した. 2.GSK3βを標的とするがん治療法開発の基盤実験 昨年度までの研究により,Wnt経路に関係しないGSK3β阻害の制がん効果を明らかにした.分子標的治療の観点か ら,新規のGSK3β阻害剤のスクリーニングが重要である.そこで,免疫沈降法により細胞内GSK3βを単離し,上記の組換えβ-catenin蛋白(基質)とリン酸化ペプチド特異抗体を組み合わせて,放射性同位元素(Ri)を使用しないGSK3β酵素活性測定法(non-RI in vitro kinase assay)を考案・開発した.
|