研究概要 |
無胸腺ラット(F344/N Jcl-rnu/rnu)の鼠径部脂肪組織よりStromal Vascular Fraction(SVF)を採取し、PKH26にて細胞ラベリングした。こうして得られたSVFを用い、左前下行枝結紮により心筋梗塞を誘導した同系ラットモデルに対して、細胞移植を行った。 梗塞部に対してNeedle injectionにより0.4×10^6および1.0×10^6細胞移植し、移植後4週目に生理学的心機能評価、病理組織学的評価、分子生物学的評価を行った。心臓超音波および心臓カテーテル検査では細胞移植群においてコントロール群と比較して明らかな心機能の改善は認めなかった。組織学的評価においては生着した移植細胞は梗塞部周囲の移植部位に強拡大で数視野に数個認められ、生着効率は1%未満であった。梗塞部周囲組織における、VEGF, bFGFなどの増殖因子の発現には細胞移植群とコントロール群で差は無かった。 これまでに、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、ES細胞由来心筋細胞などを用いて同様の細胞移植実験を行ってきたが、一貫して細胞の生着効率が不十分であり、期待したような結果を得ることができていない。従来行ってきたneedle injectionによる組織への局所注入では移植した幹細胞の生着率が低く、明らかな心機能の改善や組織学的な心筋再生を得ることは困難であることが推察される。Needle injectionに代わる移植法として、最近では細胞シートを用いた方法が主流となりつつあり、今後は本実験においても、採取した幹細胞を温度感受性培養皿を用いてシート化し、梗塞部局所に貼付する方法により細胞移植を行う方針である。
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