本年度は、経肋間神経-脊髄誘発電位測定法の開発と刺激電極、感知電極の開発を行い、動物実験ならびに臨床使用を実施した。 (1)動物実験では、ビーグル犬を用いた。左第12肋間レベルの斜切開にて、腎動脈以下の腹部大動脈を露出した。第12胸椎左横突起下方に刺激電極、第4腰椎左横突起下方に感知電極を置いた。下行大動脈単純遮断による脊髄虚血障害を起こし、従来からの頭蓋刺激の運動誘発電位測定法と経肋間神経-脊髄誘発電位測定法の比較検討を行った。その結果、頭蓋刺激の運動誘発電位測定法より経肋間神経-脊髄誘発電位測定法の方が、脊髄虚血障害時の脊髄誘発電位の消失を鋭敏に感知し、かつ吸入麻酔薬や筋弛緩薬などの影響も受けにくいことが判明した。 (2)臨床例においては、胸部下行大動脈瘤手術症例で十分な説明と同意を得た後に、術中に遮断した胸部下行大動脈の上下の肋間神経に、刺激電極、感知電極を置いて、動物実験同様に脊髄誘発電位が得られるかを検討した。臨床例でも、同時に測定した頭蓋刺激の運動誘発電位と同様の脊髄誘発電位が測定可能であった。肋間神経刺激による副作用は何ら認められなかった。 以上の結果から、本法は術野で簡易に低侵襲に測定できる脊髄誘発電位測定法として、広く臨床応用が可能と思われた。来年度は、肋間神経の刺激電極、感知電極の改良を行い、さらに鋭敏に脊髄誘発電位が測定できるシステムを完成させていきたい。
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