虚血性疾患に対する自己骨髄細胞移植による血管再生治療法は患者ごとの本治療に対する反応性(治療効果)に違いが認められる。その原因としては患者の年齢、糖尿病や高脂血症の有無、虚血の程度とその期間などの因子が挙げられるが、どの因子が、どの程度本治療の効果に影響を及ぼすかは不明である。そこで、本研究では自己骨髄細胞移植による血管再生治療の治療効果に影響を及ぼす因子を同定することを目的とした。 胸骨正中切開を必要とする成人患者から本研究の同意を得て、手術前に病歴聴取、臨床検査、血管内皮機能の評価を行った。また、手術の際に切開した胸骨から採取した約10mlの骨髄液から単核球細胞を単離し、in vitro(細胞培養)およびin vivo(SCIDマウス虚血下肢への細胞移植)による解析にて各患者の骨髄細胞の血管再生機能を評価した。本年度は8症例で評価を行い、前年度の17症例と合わせて研究計画総数(25例)に達したので、統計的解析を行った。これまでの結果として、高齢者(≧65歳)では若年者と比べ、培養骨髄細胞におけるVEGF産生量と内皮細胞への分化率が低いこと(P<0.01)がわかった。さらに、骨髄細胞移植後のマウス虚血下肢の血流改善率も高齢者の方が若年者より低かった(p<0.01)。また、腎不全(透析患者)の合併症例では非透析患者と比べ、骨髄細胞移植後のマウス虚血下肢の血流が低下していた(p<0.05)。しかし、高血圧や糖尿病などの合併例は非合併例に比べ、骨髄細胞のVEGF産生量、内皮細胞への分化率、虚血下肢の血流の改善効果に有意な差は認められなかった。 以上の結果から、自己骨髄細胞移植による血管再生治療の治療効果に影響を及ぼす因子として加齢や腎不全などが示された。さらなる解析により、本治療法の適応患者の選択基準の確立に役立つ可能性があると考えられる。
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