研究概要 |
我々は肺癌の遺伝子治療としてWntシグナル抑制とTM4SF誘導の両面から、腫瘍のプログレッションを包括的に抑制する癌遺伝子治療の研究を行っている。Wnt抑制ベクター作製のため、Wnt1とWnt2b1、Wnt5aに対する合成siRNAをそれぞれ作製した。リポフェクション法でこれら合成siRNAをヒト癌細胞株ヘトランスフェクションし、それぞれの遺伝子発現と蛋白発現を定量し、Wnt1とWnt2b1、Wnt5aの発現抑制に最適なsiRNA配列を決定した。次に、shRNA(short hairpin RNA)発現プラスミドベクターを作製するために、決定したsiRNA配列を元にshRNA配列を設計した。そしてヒトU6プロモーターを搭載したpBAsi-hU6 DNAプラスミドベクターに、shRNA配列を組入れ、Wnt1、Wnt2b1、Wnt5aの発現抑制shRNA発現プラスミドベクターをそれぞれ作製した。これらWnt抑制shRNA発現プラスミドベクターを、癌細胞株にリポフェクション法で導入すると、良好なWnt発現抑制がそれぞれにみられた。更にこのshRNA発現プラスミドベクターからヒトU6プロモーターとshRNA配列を切出し、COS-TPC法でWnt抑制shRNA発現アデノウィルスベクターを作製し、濃縮・精製も行った。in vitroの遺伝子治療実験では、Wnt2b1抑制ベクターとWnt5a抑制ベクターの導入により、それぞれの高発現癌細胞株における抗腫瘍効果がMTTアッセイで認められた。現在、担癌ヌードマウスによるin vivo遺伝子治療実験を追加検討中である。一方、我々はTM4sFのメンバーである癌転移抑制遺伝子CD9の発現誘導アデノウィルスベクターも用いて、癌転移抑制遺伝子治療の研究も行っている。そしてWnt抑制とTM4SF誘導を効率よく行うため、我々は更にカクテルベクターの作製も行っている。一方、非小細胞肺癌におけるWnt1過剰発現が、c-MycやMMP-7の発現を誘導し、悪性度の高い腫瘍を形成していることも我々は明らかにした(Liu, et. al.,Lung Cancer 2007;Nakashima, et. al.,Oncol Rep 2008)。
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