本研究は、霊長類における実験計画を変更して行ったものである。平成18年度の研究により、霊長類(カニクイザル)の海馬虚血モデル作成として血管内手術によるバルーン閉塞モデルの限界が判明した。そこで、本年度は開胸による胸部直接閉塞モデルを用いて、海馬CAl領域の神経細胞死のモデル確立と、認知機能および神経再生の効果を検証した。胸部血管閉塞モデルとして、低血圧下に虚血時間を8分から20分まで延長して至適虚血時間を探った。8分では十分な海馬神経細胞死が得られず、虚血時間を20分まで順次延長したが、12分以降の長時間虚血では心停止を来す頻度が高く、全身的影響を排除する必要が生じた。そこで、文献的にニホンザルで用いられている正常血圧下での20分虚血を試みたが、海馬CAl領域の神経細胞死を誘導できなかった。一方、記憶力課題としての食物回収試験では、一部で成績の悪化が認められたが、海馬の神経細胞損傷とは一定の関係を見いだすことができなかった。未治療状態ではあるが、BrdUを投与して神経再生の評価を行ったが、自然経過の中で再生神経細胞を確認することはできなかった。このような、虚血侵襲時における全身状態、海馬神経細胞死の不安定性の原因としては、今回の実験で用いたいカニクイザルの特性、また年齢や性、体重を一定化できなかったこと等が考えられる。画期的方法論が考案されるまで、霊長類実験は凍結する方針とした。 一方齧歯類を用いた再生実験では、線条体において再生神経細胞を確認すると同時に、これらの神経細胞の電気生理学的成熟過程を、単一神経細胞のレベルで確認することができた。また、線条体特異的神経細胞への分化、再生現象が非常に長期にわたる現象であることなどを解明することができた。今後は、神経細胞の分化過程の修飾が如何に長期にわたる神経再生に影響を及ぼすか否か等を検討する予定である。
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