研究概要 |
脳虚血サルを用いた研究を行い、げっ歯類のニューロン新生と霊長類のそれとの間には微妙なしかし明確な差異があることを明らかにした。具体的には、平成18年度の研究では以下の2点が明らかになった。 1)虚血負荷後(d15)のサル海馬歯状回においては、神経幹細胞がダウン症候群・細胞接着因子(Down syndrome cell adhesion molecule:DSCAM)のmRNAを増幅発現していることをdifferential display法で発見した。さらに、レーザー共焦点顕微鏡により、虚血負荷後(d15)には、対照に比べ新生ニューロンが顕著に増加しているのみならず、神経幹細胞がDSCAM蛋白を特異的に発現していることを確認した。 2)サル海馬の歯状回ではPax6とEmx2およびNgn2などの転写因子は神経幹細胞の段階で発現しているのみで、ニューロン前駆細胞においてはこれらの転写因子の発現はみられず、Sox1やNgn1、Dlx1/5、Olig3およびNkx2.2の発現がみられた(Neuroscience 139:1355-1367,2006;Exp Neurol 198:101-113,2006)。 海馬のニューロン新生の障害は認知症やダウン症に合併する記憶障害のみならず、近年我が国で懸案となっている学童児の情緒障害や学習障害、成人の鬱病、および脳疾患・頭部外傷後の高次脳機能障害に共通する根本原因である可能性が高い。したがって、成体サル脳の神経幹細胞が発現するDSCAMを対象としたニューロン新生の研究は、本研究の成果を契機に今後ヒトの脳疾患の病態解明と治療法開発に多大な貢献をすると思われる。
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