研究概要 |
硬膜動静脈瘻(DAVF)の成因、病態については未だ十分に解明されていない。その症状は、動静脈瘻シャントによる静脈亢進のための虚血症状や出血があり、意識障害、歩行障害、痴呆、耳鳴りなど多彩な症状を引き起こし、時に難治性で治療のために病態の解明が求められている疾患である。近年臨床例の検討から主な要因は静脈洞血栓症と静脈圧亢進状態と考えられ、血管新生因子との関わりが注目されている。しかし、臨床例の検討ではDAVFの自然経過の一時期しか見ることができず、病変発生の前段階の病態を明らかにするため、ラットDAVFモデルを用いて慢性脳静脈圧亢進状態から硬膜動静脈瘻が発生する際の血管新生因子(VEGF)の発現を調べ、DAVFの成因を検討した。 オスSDラット6〜8週齢を用いた。実験1はWesternblotにより静脈圧亢進状態の異なる3つのDAVFモデルでVEGF発現の違い(n=20)を調べた。3つのmodelはSpetzlerらの方法(J Neurosurg87:267-274,1997)を用いてA:外頚静脈と総頚動脈の吻合。B:静脈洞を凝固して閉塞させ、横静脈洞からの流出静脈を凝固したもの、C:静脈洞の閉塞、流出静脈の凝固さらに、内頚動脈と外頚静脈の端々吻合したものの3通りを比べた。実験2.はmodel Cについてmodel作製後1,2,3週間後(それぞれn=5)に脳を摘出し、Westen blotにより時期によるVEGFの発現の違いを調べ、免疫染色により脳と硬膜のVEGFの発現部位を調べた(n=15)。結果は3つのDAVF modelの内で静脈閉塞と内頚動脈と外頚静脈の端々吻合を行ったmodel Cに最もVEGFの発現がみられた。またVEGF発現の時期は1週間後に最もVEGFの発現がみられ、2週間後3週間後と発現が減少した。免疫染色では、硬膜の静脈洞近傍の血管内皮と結合組織、脳の皮質、基底核の神経細胞にVEGFの発現がみられた。 脳静脈圧亢進状態により虚血に陥った組織近傍に血管新生因子が発現し、DAVFが発生することが考えられた。ラットモデルから得られた知見は血管新生因子に注目したDAVF治療および慢性脳虚血に対する治療への応用が期待される。
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