研究概要 |
1.研究目的 下垂体腫瘍の手術療法における治療難治性の要因の一つに腫瘍浸潤が挙げられる。海綿静脈洞に浸潤した腺腫は従来の顕微鏡手術では視野が限られるために摘出し難く、残存腫瘍に対しては術後放射線療法や化学療法を必要とするため正常組織への影響は必発で生命予後は必ずしも良好ではないことが近年明らかとなった。今回我々は近年報告された新しい腫瘍浸潤と血管新生因子であるstromal derived-factor 1に着目し、下垂体腺腫細胞の臨床例での発現傾向と、in vitroで細胞内signal cascadeの解明を目的として研究を行った。 2.研究成果 最初に当施設でendoscopic endonasal transsphenoidal surgeryにより摘出された60例(15GH-oma, 10PRL-oma, 5TSH-oma, 6ACTH-oma, 24NF-oma)の下垂体腺腫に、抗SDF-1抗体と骨髄前駆細胞に特異的な抗CD34抗体を用いて、蛍光二重免疫染色を行った。SDF-1の発現と微小血管密度の関係をsubtypeや腺腫の浸潤のgradingなどで相関性を統計学的に解析し、さらには培養細胞を用いたELISA法により、低酸素刺激における下垂体腺腫細胞のSDF-1分泌を定量的に解析した。Subtypeにおける発現の相違には有意差がなく、SDF-1発現と微小血管密度に正の相関が見られた。この結果下垂体腺腫細胞にもSDF-1が発現しており、従来検討されたVEGFによる組織に既存の血管内皮細胞による血管構築とは別個に、SDF-1のhoming effectによって骨髄から血管内皮前駆細胞を誘導する機序が存在し、下垂体腺腫の血管新生に密接に関わっている事が示唆された。
|