研究概要 |
我々は,マウス脛骨の骨と骨髄にドリルで穴をあけ,骨、骨髄損傷部修復過程の経時的変化を組織学的および分子生物学的に解析した。今年度は,ビタミンA欠乏状態における骨形成と血管形成のシグナルのクロストークについて調べた。ビタミンAを含まない餌を摂取させたマウスと標準食を摂取させたマウスを用いて比較した。損傷後3週目で,標準食群は髄内仮骨が充分に形成されたが,ビタミンA欠乏群では髄内仮骨の形成は少なかった。損傷後4週目で,標準食群は髄内仮骨が吸収されて骨髄腔と皮質骨が形成されたが,ビタミンA欠乏群では髄内仮骨が残存し骨髄腔と皮質骨の形成は遅延した。ビタミンA欠乏により皮質骨修復が遅延することを,組織形態計測及びpQCTで確認した。骨、骨髄損傷後の髄内仮骨をreal-time RT-PCRで遺伝子発現を調べた。ビタミンA欠乏群は標準食群と比べて,骨形成シグナルとしては,骨基質蛋白であるオステオカルシン,BMP(bone morphogenetic protein)のmRNA発現が低下していた。MMP(matrix metalloproteinase)-3とTIMP(tissueinhibitor of metalloproteinase)が低下していた。血管形成シグナルとしては,HIF(hypoxia inducible factor)-1αとVEGF(vascular endothelial growth factor)mRNAの発現が低下していた。 HIF-1αは低酸素状態や組織損傷等により誘導される。HIF-1αにより,その下流に位置するVEGFをはじめとする血管形成の一連のシグナル伝達にスイッチが入ると考えられている。次年度は,骨、骨髄損傷修復過程におけるHIF-1αの調節機構とVEGF以外の血管形成シグナルの発現,骨芽細胞分化制御との関連性について明らかにする。
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