本年度は、食餌中のビタミンA含有量を制限することにより、血中ビタミンA濃度が低下したマウスを用いて実験を行った。胎生10日よりビタミンA欠乏食を与え続けたビタミンA欠乏(vitamin A-deficiency:VAD)群、胎生10日よりビタミンA欠乏食を与え、離乳期(生後4週)よりスタンダード食へ変更した欠乏後充足(vitamin A-deficiency-sufficiency:VADS)群、及びスタンダード食のみを与えた充足(vitamin A-sufficiency:VAS)群の3群を作成した。これらのC57BL/6J雄マウスの大腿骨骨幹部前面に直径1.0mmの骨孔(骨・骨髄損傷)を作成し、その後の骨修復過程を調べた。In vivo micro-CTによる画像解析では、1週、2週目における髄内仮骨の形成は各群で差が認められなかった。3週目にVADS群、VAS群では皮質骨の形成がみられ、4週で骨孔はほぼ治癒した。しかし、VAD群では皮質骨形成の遅延を認め、4週においても骨孔が閉鎖しなかった。骨孔部のmRNA発現は、1週目で、VADS群、VAS群に比べ、VAD群では、HIF-1、VEGFなど血管・造血シグナルが有意に低下し、オステオカルシン、オステリックス、BMP-2など骨芽細胞分化関連遺伝子にも有意な低下を認めた。破骨細胞分化マーカーであるTRACPの発現には群間差はなかった。ビタミンA欠乏状態では、骨・骨髄損傷後の骨修復過程において、血管・造血シグナルとともに骨芽細胞分化が抑制され、皮質骨再生が遅延していることが明らかとなった。現在、BMP-2を中心としたシグナルネットワークの解析と、BMP-2を補充することでこの骨・骨髄損傷修復遅延がレスキューされるか否かを明らかにする実験を遂行中である。
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