10週齢のC57BL/6J雄マウスの大腿骨中央前面部に直径1.0mmのdrill-holeを開けて、骨・骨髄損傷後の修復過程における骨と血管シグナルの役割について調べた。ビタミンA欠乏(VAD : vitamin A-deficiency)群には、胎児10日目から母マウスにビタミンA欠乏食を与え、離乳期(4週齢)以降も欠乏食を与えた。ビタミンA欠乏・充足(VADS : vitamin A-deficiency and sufficiency)群には、胎児10日目から母マウスにビタミンA欠乏食を与え、離乳期以降は標準食を与えた。ビタミンA充足(VAS : vitamin A-sufficiency)群には、実験期間中ずっと標準食を与えた。上記の3群を作成し比較した。損傷後7、14、21、28日目に検体を採取した。脱灰標本をパラフィンで包埋し、HE染色とTRACP染色を行った。損傷部の海綿骨領域で骨形態計測を行った。マイクロCTによる評価で、VAD群ではVAS群やVADS群と比べて損傷後の皮質骨の修復が遅延していた。一方、損傷部の海綿骨領域において、VAD群はVAS群やVADS群と比べて海綿骨量(BV/TV)と骨梁表面の骨芽細胞数(Ob.N/BS)が減少していた。VAD群の損傷部では、HIFとVEGFのmRNA発現が低下していた。VEGFシグナルの下流に位置するBMP-2の発現も低下し、一連の骨形成系シグナル(dlx5、msx2、osterix、col1a1、osteocalcin)が低下していた。VAD群にBMP-2を補充することによりこの骨形成遅延と骨・骨髄損傷修復遅延が正常レベルに回復した。これらの結果から、ビタミンA欠乏マウスでは、HIFやVEGFなどの血管関連因子とともにBMP-2やOsteocalcinなどの骨形成因子が低下していた。このマウスにおける骨・骨髄損傷後の修復過程における海綿骨量減少、皮質骨修復遅延は、骨髄細胞におけるBMP-2遺伝子発現の低下と関連していることが明らかとなった。
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