呼吸運動は大別すると吸気相および呼気相の2つの相から成り立っており、これらの相は呼吸中枢における複雑な呼吸ニューロンネットワーク出力によって制御されている。吸気相および呼気相に生じる呼吸ニューロンの活動はそれぞれ吸気抵抗負荷および呼気抵抗負荷によって促進されるが、これらの呼吸ニューロン活動が発生する呼吸困難感に対して量的あるいは質的にどのような影響を及ぼすかについては研究されていない。本研究では23名の健康被験者を対象として、二酸化炭素負荷、吸気抵抗負荷、呼気抵抗負荷を加えた場合に発生する呼吸困難感を質的、量的な面から検討した。その結果、CO_2負荷は空気飢餓感(air hunger)および呼吸努力感(work/effort sensation)からなる呼吸困難感を発生させた。CO_2負荷に吸気粘性抵抗を加えると、吸気困難感は増強するが、呼吸努力感は減少する。CO_2負荷に呼気粘性抵抗負荷を加えると、呼気困難感は増強したが、空気飢餓感は低下した。同じ抵抗負荷を加えた場合、吸気抵抗負荷の方が呼気抵抗より強い呼吸困難感を発生した。CO_2負荷に吸気-呼気粘性抵抗負荷を加えると主に呼吸努力感の増強がみられた。また、量的に吸気-呼気抵抗負荷はそれぞれの呼吸相から得られる呼吸困難感の和に等しい値が得られた。これらの結果は粘性抵抗負荷によって発生する呼吸困難感は呼吸相の違いによってその質が異なること、吸気粘性抵抗負荷と呼気粘性抵抗負荷は量的には相加作用を持つことを表しており、呼吸困難感の質を識別するものとは別に量的な差を識別できる中枢機構が存在することを示唆している。
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