N-acetyl-aspartyl-glutamate(NAAG)は哺乳動物の中枢神経系に多く存在する。NAAGはmGluR3の作動薬として働き、またNAAG peptidaseによりN-acetyl-aspartateとglutamateに分解され、glutamateの供給源としても働く。このように複雑な作用が報告されている。また、慢性疼痛に患者では中枢神経系でNAAGの含量が増加していることが報告されている。このように、glutamateを介する痛み刺激伝達にNAAGが強く関与している可能性が示唆されてきている。本年は、中枢神経系以外に末梢神経、特に末梢神経の遠位端での炎症性疼痛に対するNAAGの働きに関して検討した。炎症性疼痛モデルとして、ラットホルマリンテスト・カラゲニンテストを用いた。ホルマリンテストは5%ホルマリンを、カラゲニンテストではカラゲニン2mgをラット後肢に皮下注し、炎症を誘発することにより痛みを作成した。ホルマリンテスト・カラゲニンテストでともに、NAAG peptidase inhibitorをホルマリンもしくはカラゲニンと同時投与することにより痛みを投与量依存性に軽減することができた。またNAAG自身を投与しても痛みを軽減した。これらの効果はmGluR3のantagonistであるLY341495にて拮抗できた。従って、炎症性疼痛では炎症の部でNAAGが放出されており、このNAAG量が分解酵素阻害薬により増量することによりmGluR3が活性化され、鎮痛効果を発揮している可能性が示唆された。このように、NAAGは今後鎮痛薬開発のターゲットとなる可能性があると考えられた。
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