研究概要 |
脳梗塞時に何が睡眠・覚醒サイクルの異常を来すかを探求することが本研究の課題である。近年、サイトカインが睡眠覚醒に影響を及ぼす事が明らかになった。脳虚血・再灌流により細胞が壊死に陥ると、核内でクロマチンを安定化する作用のあるhigh-mobility group box1(HMGB1)蛋白が細胞外に放出される。HMGB1にはサイトカイン様作用があり、本年度は(1)中大脳動脈虚血・再灌流(MCAO)モデルにてHMGB1を形態学的に検出、(2)HMGB1を脳室内投与した時に睡眠・覚醒サイクルがどのように変化するかを検討した。[方法]体重250-350g Wistarラットを用いた。MCAOモデルは虚血・再灌流後1,4,10,22時問後の脳を摘出し、HMGB1に対して免疫組織染色を施行した。脳室内投与モデルでは実験5〜7日前に、脳室内ガイドカニニューラをBregma-0.8mm、外側1.5mm、深さ4.0mmに留置腫し、脳波、項部筋電図電極を歯科用セメントで固定した。実験当日、2%イソフルラン麻酔下で脳室内ガイドカニューラより生理食塩水(対照群)またはHMGB1(1μg)を5μ1注入した後、恒温・恒湿チャンバー内で脳波・筋電図を3時間記録し覚醒、REM、non-REM睡眠時間(%)をSleepSign[○!R]で解析した。[結果]HMGB1は早いモデルで再灌流1時間からpenumbra領域に出現した。脳室内HMGB1注入後3時間での覚醒時間、REM睡眠時間、non-REM睡眠時間の割合は、生食群では57.4±1.9、7.0±3.7、35.5±4.4%、HMGB1注入群では31.0±4.3、7.9±3.5、61.1±3.0%(p<0.0001:2元配置分散分析)でHMGB1群で有意にnon-REM睡眠時間の延長と覚醒時間の短縮(p<0.001:unpaired t test)がみられた。REM睡眠時間は両群間で有意な差はなかった。[結論]脳梗塞時に放出されるHMGB1には睡眠誘発作用があることが明らかとなり、この蛋白の作用により種々の覚醒神経該に影響を及ぼす事が推測される
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