研究概要 |
前年度より引き続いて行ってきた長期タバコモデルにおける吸入麻酔薬の反応性の相違について研究を継続し,大学院生に学位(医学)を取得させた.本年度は,取得した科学研究費で細胞膜チャネル電流を測定できるパッチクランプシステムを構築した.長期タバコ喫煙による気道過敏性の亢進と,アレルゲン曝露による気道過敏性の亢進に対して,吸入麻酔薬セボフルランと静脈麻酔薬チアミラール・プロポフォールの影響について観察した.長期タバコ喫煙による肺気腫モデルでは,強力な筋弛緩作用をもつ吸入麻酔薬セボフルランの効果が減弱した.カルシウムチャネルの活性自体は変化していなかったものの,cAMPレベルの細胞内情報伝達系に影響を与えており,気道平滑筋細胞の破壊と再生による変化が影響しているものと考えられた.一方,アレルゲン曝露による気道過敏性亢進モデルでは,吸入麻酔薬セボフルランは良好な弛緩作用を示した.しかし,気道刺激性があり吸入麻酔薬導入に向かないとされるイソフルランの高濃度曝露では,臨床知見と一致して,曝露開始時に一過性の気道収縮が認められた.静脈麻酔薬チアミラールは臨床上気道過敏性が亢進した患者には不向きとされてきたが,本モデルにおいても濃度依存性に一過性の気道収縮を認め,臨床知見を裏付ける結果となった.静脈麻酔薬プロポフォールはこのモデルにおいても良好な気道平滑筋弛緩作用を示し,臨床においても安全に使用できると考えられる.今後は,これらの現象を構築したパッチクランプシステムを用い,チャネルレベルでの機序解明につなげたいと考えている.
|