研究概要 |
制限摂食群ヒツジの準備および遺伝子検索に必要なヒツジ用primerの設定に時間を要したため,本年度の実験は遺伝子レベルを中心とした解析に限定し,先ず,マウス胎仔を用いた実験を行った.十分な栄養を給餌した「通常餌群」ならびにこれと同等の熱量を有するものの蛋白質のみ50%に制限された制限餌を交配開始前から給餌された「制限餌群」の二群を準備した.胎齢17日の胎仔から胎盤および肝臓を採取してRNAを抽出し,これらの臓器でエピジェネティックな調節を受けている遺伝子群を中心にRNAの発現をRT-PCRを用いて調査した. 肝臓では制限餌群において脳内オリゴデンドロサイトの増殖を元進するIgf2の発現が低下していたが,オリゴデンドロサイトの分化を促進するIgf1の発現には両群間で差はなかった.Igf2は胎盤にも発現して胎仔の成長を促進させるが,胎盤での発現においても両群間に差はなかった. 肝臓におけるIgf2発現の違いに基づいて,胎齢17日および生後7日における脳組織を免疫組織化学的に検討した.すなわち,胎齢17日の脳ではオリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーであるOlig2とPDGFRαの局在を通常餌群と制限餌群で比較し,また,生後7日の脳においては成熟オリゴデンドロサイトのマーカーであるMBPの局在および陽性細胞数を両群間で比較した.肝臓におけるIgf2の発現低下から制限餌群でのオリゴデンドロサイト関連マーカー陽性細胞数が減少していることを期待したが二群間に有意な差は認められなかった. その理由のひとつとして胎仔脳に多数存在する神経幹細胞がこれを補償したためと推察された.そこで母体に経膣的にリポ多糖類を投与して子宮内炎症を惹起し,胎仔脳に残存する補償能を検討した.制限餌群(+)かつ子宮内炎症(+)群のみでオリゴデンドロサイトが有意に減少し,本補償機構の破綻が強く示唆された.現在,本補償機構を詳細に解析するためにマイクロアレイ法を用いてRNA発現を網羅的に調査している.
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