研究概要 |
近年、日本において上皮性卵巣癌(卵巣癌)は著しい増加を示している。特に、子宮内膜症に関連する類内膜腺癌と明細胞腺癌の増加が、日本の卵巣癌の急激な増加の一因となっている。本研究においては、卵巣癌の主な4つの組織型の中でも内膜症病変に関連する類内膜腺癌と明細胞腺癌に焦点を絞り、その発癌機構を明らかにするとともに、卵巣癌の組織型を考慮に入れた個別化した治療法の開発ならびに分子標的治療への応用を目的とする。 今回、われわれは、米国University of Michigan Medical School, Kathleen R.Choらとの共同研究により、ヒト卵巣類内膜腺癌おいてはK-ras遺伝子変異の頻度が低く、また、PTEN変異を有するものにWnt/β-cateninの異常を伴っていることが多いことを明らかにした。また、これらの異常が多くみられた遺伝子を改変することによってヒト卵巣類内膜腺癌のモデルマウスを作製することができ、ヒト類内膜腺癌の発生においてはPI3K/PtenとWnt/β-cateninシグナル伝達系の重要性が明らかとなった(Cancer Cell. 11;321-333,2007)。さらに、われわれはHuman papilloma virus type 16 E7ならびにhTERTの導入により染色体の安定した不死化ヒト卵巣表層上皮細胞株(HOSE-E7/hTERT)を用いて、SiRNA法によるPTEN遺伝子の不活化ならびにWnt/β-cateninの活性化を誘導したHOSE-E7/hTERT細胞株を作製し、これをヌードマウスに移植したが腫瘍の形成には至らなかった。しかし、HOSE-E7/hTERT細胞におけるPI3K/Ptenシグナル下流の遺伝子を活性化することで腫瘍の形成能が得られた。また、K-rasの活性化によっても異なる組織型の腫瘍が得られた。現在、導入遺伝子と組織型との関連性を検討している。
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