研究概要 |
【背景】近年、若年ガン患者の治療成績は著しく向上したが、副作用として卵巣機能障害は避けがたい。生活の質(QOL)の観点から若年女性ガン患者の妊孕能の回復が強く望まれている。妊孕性の温存のためには、卵巣の凍結保存技術の開発と卵胞および卵母細胞の培養による発育条件の至適化が必要である。これらの基礎検討を動物実験により実施することが研究の目的である。 【具体的内容】平成18,19年度には、マウス卵巣の凍結保存法の確立、および早期2次卵胞を培養系で安定して高率に発育させ、成熟卵子を獲得する培養条件の開発をおこなった。コラーゲンゲルとコラーゲンコート膜を用いる2段階培養法を用いることにより、これまで報告のなかった発育早期の卵胞発育培養が可能になった。平成20年度には、卵胞発育の分子メカニズムを解明しさらに培養法を改善する目的で、卵胞の発育が同調して起こる幼若期のマウス卵巣を用いて、DNAマイクロアレイを実施した。結果をパスウェイ検索にかけ、卵胞発育促進が予測される因子として、prognenolone、SCF、GDF-9、GABA、PDGFを選択した。これらの因子を培養液に添加して卵胞発育効果を調べたが、現在培養効率を上げる効果を認めていない。他の因子について検討の必要がある。また、in vivoとin vitroでの発育卵母細胞の遺伝子発現をRT-PCRを用いて比較検討した。卵母細胞に特異的に発現されることが知られている増殖因子:GDF-9,BMP-15の発現量、時間的発現変化は、in vivoとin vitro発育卵母細胞で差がなかった。これらの結果は、我々の開発した培養法が卵母細胞の発育に有効に働いていることを示している。 【本研究の意義、重要性】以上の研究結果は、ヒト卵胞の培養システムの開発に有用な情報であり、将来難治性不妊症の治療法の開発に応用できる。
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