研究概要 |
近年,急性呼吸窮迫症候群の治療成績が向上してきたとは言え,いまだその救命率は低い.特に敗血症に続発する場合は予後が悪く,その病態解明と治療法の確立は急務である.アンチトロンビンIII(AT)は抗凝固作用のために,主に播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療に用いられているが,その作用機序はトロンビンや他の凝固因子に結合して失活させることである.一方,DICばかりでなく重症敗血症に対するATの有効性がメタアナリシスで確認された.この効果はATの抗凝固作用のみでは説明がつかない.これまで我々は,ラットにエンドトキシンを投与した時に生じる好中球の肺毛細血管への捕捉とそれに引き続く好中球の活性酸素産生をATが抑制すること,そして好中球の変形能の低下の原因であるアクチンの重合を抑制することを明らかにした.一方,分離人好中球をATで前処置するとfMLP投与による好中球変形能低下とアクチン重合が抑制されることを明らかにした.さらにヘパリン親和性の無いlatent-ATが同じ反応を示すことから,好中球細胞膜上に発現する新たな受容体が存在することを示した.またATがheparan sulfateを介さずにシンデカン4(SDC4)コア蛋白に直接結合していることを示唆した.そしてATに対する全く新しいタイプの受容体としてのSDC4コア蛋白の解析をすることとした.そしてショウジョウバエ由来細胞に遺伝子導入実験を行って,実際にSDCコア蛋白の解析中である.
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