研究概要 |
今年度の研究を通して、(1)我々の見出した新規機能性単糖1,5-D-アンヒドロフルクトース(1,5-AF)及びその誘導体のアスコパイロン-P(APP)は、それぞれ、炎症細胞の炎症性サイトカイン産生(TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8)、Mixed lymphocyte reaction(MLR)のような免疫反応などに対して、抑制的に作用することが明らかになった。しかしながら、1,5-AFの生体内代謝産物(1,5-AFを酵素的に還元して得られる誘導体)である1,5-AGには、このような直接的な抗炎症作用は認められなかった。逆に、(2)代謝系に与える影響としては、1,5-AGは、脂肪細胞からの抗炎症性アディポサイトカインで、インスリン感受性を増大させるアディポネクチンの産生増強作用が認められ、1,5-AF及びAPPには、その作用は認められなかった。(3)敗血症・多臓器不全状態において、破壊された組織・細胞(壊死病巣)から放出され、「個体死のメディエーター」として作用するHMGB1蛋白の動態・機能に対して、今回、新たに、(4)細胞を嫌気刺激することにより、細胞死に先行して、HMGB1蛋白の放出がみられ、この現象は、ほとんど全ての細胞種において観察されることを発見したが、(5)これについても、1,5-AFは、嫌気細胞死を強く抑制すると同時に、その先行現象であるHMGB1蛋白の放出も著明に抑制することが観察された。その際、1,5-AFは、同時に、嫌気に伴う細胞での乳酸産生をも抑制し、糖代謝とHMGB1蛋白の細胞外放出がリンクしていることも明らかとなった。(6)1,5-AFは、HMGB1蛋白と受容体RAGE蛋白の相互作用を抑制することはできなかった。以上より、重症敗血症の治療において、糖代謝下流の回転をスムーズにさせるようなものが治癒率向上のための1つのストラテジーになり得ることが示唆された。
|