研究概要 |
侵襲微生物に特有の構造をパターン認識して生体防御に当たる自然免疫系が注目されている。本研究では口腔粘膜の自然免疫系について検討して、本年度は次の様な知見を得た。昨年、口腔上皮細胞で得た知見を咽頭、唾液腺、食道、胃、腸管、子宮、肺、腎等計16系統のヒト上皮細胞に広げて検討した結果、いずれの細胞もToll-like receptor(TLR)2,3,4,7,NOD1ならびにNOD2を発現しているが、一部の腸管上皮細胞を除いて、対応する合成リガンドで刺激しても炎症性サイトカイン産生を誘導しない。他方、抗菌因子であるβ-2デイフェンシンの産生は増強される。これらの知見は細菌と接する機会の多い上皮細胞は過剰な炎症・免疫応答を回避し、専ら抗菌因子を産生することを示唆している。さらに口腔上皮細胞ではTLR系とNOD系リガンドを組み合わせて刺激すると相乗的な抗菌因子産生が認められた。一方、歯周病原性細菌と目されるPorphyromonas gingivalis由来の酵素、3種のジンジパインは口腔上皮細胞のprotease-activated receptor(PAR)1,2および3を活性化するが、活性化された細胞は各種TLRならにNOD1/2リガンドに応答して活発に炎症性サイトカインを産生するようになる。ちなみに、ジンジパインのうち、血球凝集活性部位を有するHRgpAとKgpは口腔上皮細胞のIL-8産生に限っては劇的に抑制する。一方、血球凝集活性部位を欠くRgpBはIL-8産生増強作用を示した。ちなみに抑制作用と増強作用はいずれもPAR依存的な作用であった。今後はPARとTLRないしNOD系とのクロストークを含めて、口腔上皮の自然免疫制御の機序を分子レベルで追求したいと考えている。
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