研究分担者 |
森田 克也 広島大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 准教授 (10116684)
北山 友也 広島大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 助教 (60363082)
森岡 徳光 広島大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 助教 (20346505)
北山 滋雄 岡山大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (80177873)
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研究概要 |
神経因性疼痛の新しい治療法,治療薬の開発を目的に,脊髄グリシン神経に焦点をあて研究を行った.前年度までに,グリシントランスポーター(GlyTs)阻害薬が異なった神経因性疼痛モデルにおいて等しく抗アロディニア作用,抗痛覚過敏作用を有するだけでなく,急性炎症モデルでも鎮痛効果を現すことを見い出した.さらに,GlyT阻害薬を用いた解析から神経損傷後初期にはグリシン神経の本来の抑制性機能が消失し,むしろ興奮に転じることが疼痛発症の基礎をなすことを示唆してきた.GlyTl Koマウスでは運動神経麻痺が,GlyT2 Koマウスではシナプス小胞のグリシンの涸渇がおこり,びっくり病の表現型が現れることが報告された,これらの説に従えば,GlyTs阻害薬は鎮痛作用を発現するというアイディアには至らない.今年度はGlyTs阻害薬の鎮痛薬としての有用性とこれら矛盾点について検討した. GlyT1阻害薬の鎮痛作用には潜時を必要とした.この潜時はNMDA受容体阻害薬により消失し,グリシンによるNMDA受容体の活性化によることを明らかにした. GlyT2阻害薬の長期間反復投与や脊髄GlyT2ノックダウンでもグリシンの涸渇は起こらず,GlyT2がクリアランスにも機能することを明らかにした. GlyT2阻害薬の長期間持続投与およびGlyT2ノックダウンでもびっくり病様表現型は出現せず,運動の協調性,平衡感覚など運動機能にも変化も観られず,知覚神経のGlyT2阻害薬感受性は運動神経のそれよりも3,000倍も感受性が高いことが明らかになった. 以上のことが,これまでの定説に逆らってGlyT阻害薬が運動機能に影響を及ぼすことなく強力な疼痛制御作用を発現する理由と考えられる.特異的GlyTs阻害薬の開発は痛覚伝達の抑制系を強化することで,原因の異なる広範な疼痛患者に対しても有効な治療戦略として期待される.
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