樹脂含浸層の劣化機構をシュミレートするために、長期水中保存を行った試料を接着試験に供したところ、水分が到達し得る象牙質接着界面では樹脂含浸層からレジンの抽出がみられた。一方、水分の到達がない接着界面では樹脂含浸層の劣化が認められなかった。In vivoでの検討では、in vitroとは異なり、水分が十分に到達しない接着界面でも接着の劣化が観察された。 超微細構造的な検討では、含浸層内からのレジンの抽出およびコラーゲン線維の劣化が認められ、これには何らかの形でMMPが作用していたことが推測される。MMPの接着界面への作用機序としては、だ液由来、象牙細管由来あるいは歯の発生期に取り込まれたMMPがアクティベートされ、露出コラーゲンを消化していったものと考えられる。 一方、生体内では、抜去歯でMMPを作用させた場合と似たような劣化像を示すことが分かった。そこで、唾液、MMP、その阻害剤であるクロルヘキシジン水溶液中に保存した試料の接着耐久性を検討したところ、一様な接着強さの劣化が見られた。MMP阻害剤であるクロルヘキシジンが接着の劣化に寄与できないことが分かった。今後は、更なるMMP阻害剤を検討する必要がある。 超高圧電子顕微鏡での検討では、エナメル質を構成する原子の配列は観察可能になったが、機能性モノマーとアパタイトとの相互作用は現時点では観察できていない。これは、試料の厚みのコントロール、電子線の試料に対する向き、および電子線によるビームダメージが主な原因と考えられる。今後はこの辺りの解決策を検討していく予定である。
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