研究概要 |
歯髄疾患に伴う難治性疼痛の発症機構を解明する基礎的研究として, SDラットを用いた動物実験にて細神経興奮性物質かつ起炎性物質であるmustard oilにて歯髄を化学的に刺激した際の中枢神経系の早期応答を,歯髄神経の投射経路である三叉神経脊髄路核中間亜核尾側亜核境界部(Vi/Vc部)及び視床内のp38MAPK, GFAP及びNMDARのmRNAの発現状況を指標としてRT-PCR分析にて神経科学的に解析した。刺激と同側三叉神経脊髄路核Vi/Vc部と対側視床でこれらのmRNAの発現が確認された。前2者はそれぞれmicroglia及びastrocyteというglia細胞の活性状態と,また後者は歯髄神経からの求心性情報を上位中枢に中継するneuronの活性状態と関係していると考えられるので,歯髄神経の興奮は中枢においてneuronのみならずgliaも早期から活性化していることが示唆された。これまでに実施してきた歯髄駆動neuron活動記録の分析結果を加えて,これらのgliaの活性化が神経因性疼痛(neuropathic pain)の発生と存続に重要な役割を担っているとの最近の報告を考慮すると,歯髄の炎症性変化に伴う歯髄求心神経の興奮は顎顔面領域のneuropathic painの誘発因子となる可能性が示唆された。 歯髄疾患に伴う難治性疼痛の発症の機構を解明する臨床的研究として,広義の歯髄疾患に罹患している患者で,疼痛を訴えて紹介により本学歯学部附属病院を受診した患者の治療前の疼痛状態を,客観的に測定する方法の確立を試みた。日本語版McGill疼痛質問表とVAS法による解析を実施したところ,頑強な疼痛に罹患していた患者(OCP)群が通常の慢性根尖性歯周炎の患者群よりも, McGill疼痛質問表の感覚的痛み指標,評価的痛み指標,及び総合的痛み指標の各々のスコアにおいて有意に高い値を示すこと,またVAS値においても前者の方が有意に高い値を呈することが判明した。これらの事実から,本研究で行ったMcGill疼痛質問表とVAS法に加えて, X線検査の画像診断を正確に行うことにより, OCPの診断が的確に行える可能性が示唆された。
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