研究概要 |
初年度である本年度は,まずヒト抜去歯の歯髄細胞から歯髄幹細胞を,マウス胎生期の歯胚から歯胚上皮細胞と歯胚間葉細胞の単離を試みた。Gronthosらの方法に準じてヒト抜去歯から歯髄幹細胞を単離し,これらが象牙芽細胞へと分化することを確認するため,デキサメタゾン存在下で30日間培養を行った。その結果,培養18日目から象牙芽細胞マーカーであるDSPPの発現が確認され,さらに,石灰化ノジュールの形成も認められた。また,hTERT遺伝子を導入したラット歯髄細胞(T4-4 cell)においてもほぼ同様の結果が得られた。これらの細胞を用いて上皮間葉相互作用に関連している既知の成長因子であるShhを添加し,Shhが象牙芽細胞の増殖・分化に与える影響を調べた。すなわちMTS assayにて細胞増殖を測定し,アルカリフォスファターゼ活性の測定やDSPPの発現をPCR法を用いて解析を行った。さらにalizarin red染色を行い石灰化に及ぼす影響を調べた。その結果,Shhはこれら歯髄幹細胞の増殖を促進するだけでなく,分化をも促進することが明らかになった。Shhのインヒビターであるシクロパミン存在下で同様の実験を行った結果,Shhの歯髄幹細胞に対する細胞増殖と分化の効果は抑制された。以上の結果から,Shhが象牙質再生のキーファクターとなりうることが示唆された。次年度以降の実験にはこのShhをDNAプラスミドに組み込み,遺伝子導入法を中心に更なる解析を行う予定である。 マウス歯胚からの歯胚上皮細胞と歯胚間葉細胞は胎生14日以降の歯胚で試みた。実体顕微鏡下で歯胚を摘出し,歯胚上皮と歯胚間葉をニードル針で分離した後,それぞれ培養を行った。しかし,培養細胞の形態が均質でなく,単一の細胞として分離することが困難であった。次年度以降は,これらの細胞の単離方法を確立したい。
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