研究概要 |
(1)PIXE法(粒子励起X線分光法)によって10%牛胎児血清を配合した細胞培養液(MEM)と同培地で培養したマウスマクロファージ様細胞RAW264の元素分析を行ったところ、培地には血清由来と考えられる微量金属元素(Ti, Mn, Fe, Ni, Zn, Cu)が0.01から0.3ppm程度含まれ、20継代培養後のRAW264にはこれらの微量金属元素が10〜1000倍程度増加した濃度で含有されることを確認した(Tiは9.3ppm)。さらに、チタン定量用標準液を希釈しチタンイオンを1ppm配合した細胞培養液でRAW264を2日間培養したところ、チタンイオン配合量が115ppmとなり対照細胞に比べ12.4倍増加することを確認した。この際、細胞生存率が55%低下し、TNF-α生成量が70%増加し、活性酸素除去酵素量が2倍に増加することを確認した。従って、細胞培養液中のチタンイオン錯体は貪食によって容易にマクロファージ内に移行するものの、酸化ストレスによってイオン化され細胞内の解毒蛋白質と結合し、細胞内貯留によって無毒化されると類推された。 (2)triethyleneglycol dimethacrylate(TEGDMA)モノマーが生体防御で重要な役割を担う単球細胞に及ぼす影響を検討する目的で、(1)無刺激の対照THP1細胞、(2)Lipopolysaccharide(LPS)(4h)に暴露されたTHP-1細胞と(3)LD50濃度(2.5mmol/L)のTEGDMAモノマー(24h)とLPS(4h)に暴露されたTHP-1細胞について、47k DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現評価を行った。2.5mmol/L濃度TEGDMA刺激((3)対(2))で発現が2倍以上昂進した遺伝子は518個、逆に発現が0.5倍以下に抑制された遺伝子は304個であった。昂進が最大の32倍を示した遺伝子はaldo-keto reductase family, member C1(略号AKR1C1)であった。これは解毒化酵素であり、細胞内に侵入したTEGDMAを化学修飾し、親水性を高めて(すなわち、C=0基を還元、-OH基にして)体外排出を計ったものと考えられた。Apoptosis signaling pathwayの分析から2.5mmol/L濃度TEGDMAによる細胞増殖の抑制(LD50)はCa^<2+>イオン誘起細胞死pathway(小胞体stress感知を伴う)とCASP3遺伝子の昂進が一因と考えられた。Toll-like receptor signaling Pathwayの分析から、2.5mmol/L濃度TEGDMAはLPS刺激による炎症状態を若干緩和すると考えられた。遺伝子発現の減弱はTLR4, IL-6, IL-12, CD-80, MIG, I-TAC等で認められた。
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