研究概要 |
1. 上皮様形態を示す扁平上皮癌細胞,間葉系形態を示す高度浸潤型扁平上皮癌細胞,Snail強制発現によりEMTが誘導された扁平上皮癌細胞を用いてマイクロアレイを行い,EMTに伴って変化し高度浸潤能に関連する遺伝子としてδNp63αを同定した。高度浸潤型扁平上皮癌細胞にδNp63αを導入すると浸潤能が抑制され,上皮様形態を示す扁平上皮癌細胞からp63を消失させると克進した.さらに,δNp63α依存的にId3遺伝子発現が制御され、Id3によるMMP-2の発現抑制により浸潤能が抑制されることを見出した。 2. δNp63αの標的遺伝子JaggedもEMTに伴って消失し、δNp63α遺伝子の強制発現によって誘導された。Jaggedは、Notchリガンドであり、Notchシグナルは上皮構造の維持に重要である。Notchシグナルを遮断するgamma-secretase inhibitor(DAPT)によって扁平上皮癌細胞はアポトーシスが誘導されたが、EMT型細胞は抵抗性を示した。 3. マイクロアレイ法を用いて同定した遺伝子群の中で、分泌蛋白質Cyr61を見出した。Cyr61安定発現扁平上皮癌細胞は、E-cadherinの発現を保ったまま浸潤能と運動能が亢進した。DAPTにより扁平上皮癌細胞におけるAKTリン酸化は抑制され、ブレアポトーシス因子Bimの発現が誘導されたが、Cyr61はAKTのリン酸化を亢進し、Bimの発現を抑制した。EMTにより遮断されるNotchシグナルのストレスに対し、EMT型癌細胞ではCyr61によりアポトーシスを回避することが明らかになった。 4. EMTによりSDF-1受容体であるCXCR4の発現が誘導されることを既に報告している。乳腺外Paget's病は高度に血管新生を伴う皮膚悪性腫瘍であるが、腫瘍周囲のリンパ管や、所属リンパ節のリンパ管内皮細胞では強くSDF-1を発現していること、腫瘍先端部の細胞はEMTを獲得しCXCR4の発現が亢進していること、SnailによりEMTを誘導した扁平上皮癌細胞がSDF-1に対して強いケモタキシスを示すことを示した。腫瘍関連リンパ管内皮細胞が積極的にEMT型癌細胞をリンパ管内に浸潤させ、リンパ節転移を誘導することが明らかになった。
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