研究概要 |
癌治療において、副作用が少なく放射線や化学療法剤に抵抗性を示す癌腫にも効果があるとして免疫療法が注目されている。さらに、癌免疫療法剤の効果発現に、Toll様受容体(Toll-like receptors: TLRs)が重要な役割を演じている事も明らかになった。本研究において、我々は、口腔癌患者における、TLRシグナル関連遺伝子群について、網羅的に検索し、各種免疫療法剤(Biological response modifier: BRM)に対する反応性、治療効果と比較検討し、TLRシグナル関連遺伝子発現profileを基準とした、個別的免疫療法の確立目指す。初年度は、13名の健常人ならびに33名の治療前の口腔癌患者由来末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell: PBMC)において、TLR関連遺伝子の解析を行なった。13名の健常人では、すべてTLRシグナルは正常であったのに対し、口腔癌患者の中には、幾つかのTLR関連遺伝子の欠如(TLR2, TLR4, TLR9, MD-2)に伴い、下流のシグナルの不活化(転写因子NF・κB、 IRF3の不活性化、MAPK群のリン酸化の低下)が認められた。In vitro実験結果より、TLR4(-)あるいはMD-2(-)患者のPBMCは、免疫療法剤OK-432の活性成分であるリポタイコ酸関連標品OK-PSAに反応せず、TLR2(-)患者PBMCはBCG細胞壁分画(BCG-CWS)に、TLR9(-)患者PBMCはCpG-ODNに反応せず、Th1型サイトカイン(IFN-γ, IL-2, IL-12, IL-18)を産生せず、細胞障害活性も発現しない傾向にあった。これらの結果は、過去の、我々および他施設からの報告と矛盾しない。免疫療法剤を含めた治療(放射線+免疫療法剤、化学療法+免疫療法剤、樹状細胞療法+免疫療法剤)治療を終了した患者については、治療効果においても同様、TLRシグナルの保存された患者様において良好な治療効果が得られる傾向にある。我々はさらに動物実験系を立ち上げた。前実験の結果、中和抗体やsiRNAによって、 TLRシグナル伝達系、特にTLR4のシグナル伝達経路をブロックした場合は、OK-432、 BCG等による抗腫瘍免疫活性は発現されず、これらの薬剤による抗腫瘍効果も認められなかった。この結果をもとに、19年度の実験として、TLR2、 TLR4、 TLR9、 MD-2あるいはMyD88遺伝子を欠失させたノックアウトマウスを用いて、これらの分子とBRM製剤の治療効果との関連性を検討するモデルを確立し、実験進行中である。
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