研究概要 |
がんでは,しばしば細胞周期のチェックポイントに関与する遺伝子の異常が知られている.我々は,がんにおいてCHFR遺伝子の異常メチル化による高頻度のサイレンシングを報告した(Proc Natl Acad Sci USA,2003).CHFRはE3ユビキチンリガーゼで,G2期から分裂期前期において,微小管ストレスがあった際のチェックポイントに関与する.本研究では,微小管阻害剤感受性予測への応用や分子標的としての可能性について検討した.さらに,ノックアウトマウス作成による個体における機能解析や発がんにおける役割の解析を開始した. 1.CHFR遺伝子のメチル化を指標とした微小管阻害剤感受性の予測 CHFRが異常メチル化を示すがん細胞株はdocetaxelなどの微小管阻害剤により誘導されるアポトーシスに高い感受性を示した.口腔扁平上皮癌臨床例の術前化学療法においても,CHFRの異常メチル化は、docetaxelによるネオアジュバント治療の感受性予測に有用であった.CHFRが正常に機能している腫瘍細胞は,微小管阻害剤投与によりG2期に停止してしまい薬剤抵抗性を示す.そこで,CHFRをノックダウンすることにより微小管阻害剤の作用を増強することが可能かを検討した.CHFR発現をノックダウンする目的で、CHFR発現陽性の細胞株にshRNAベクターを導入したところ,微小管阻害剤処理後のmitotic indexの増加や薬剤感受性の増強を認めた.これらの結果より,CHFRは微小管阻害剤の感受性を増強する重要な分子標的と考えられた. 2.CHFRノックアウトマウスの作成 CHFR(-/-)マウスは正常に発生し,CHFRは個体の発生には必須でないことが示唆された.CHFR(-/-)マウス由来MEFは,docetaxel処理により8N細胞の出現アポトーシスの増強を認めた.CHFRが染色体の安定性保持に重要であることが示唆された.
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