研究概要 |
がんでは細胞周期のチェックポイントに関与する遺伝子の異常が知られている.我々は,がんにおいてCHFR(checkpoint with forkhead associated and ring finger)遺伝子の異常メチル化による高頻度のサイレンシングを報告した(Proc Natl Acad Sci USA,2003).CHFRはE3ユビキチンリガーゼで,G2期から分裂期前期において,微小管ストレスがあった際のチェックポイントに関与する. 本年度は,cDNAマイクロアレイ解析により,CHFRがNF-kBシグナル経路を負に制御するというCHFRの新規の機能を明らかにした.まず,ルシフェラーゼアッセイにより,CHFR発現がNF-kB特異的レポーターの転写活性を阻害することを確認した.RNA干渉によるCHFRのノックダウンにより,NF-kB活性は回復した.EMSA(electrophoresis mobility shift assay)およびELISAによって,CHFRはp65およびp50の活性を負に制御していることを確認した.次に,NF-kBシグナルの代表的な標的遺伝子の1つであるIL-8の発現が,CHFRにより負に制御されているかどうかを検討した.CHFR発現により,IL-8のmRNAおよびタンパクレベルが顕著に減少した.ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞運動能は,抗IL-8抗体によって阻害されることが既に知られているが,CHFR発現させたHCT116細胞のconditioned mediumによっても同様の細胞運動能の阻害が見られた.本研究により,CHFRの新規の機能としてNF-kBシグナル経路の負の制御を明らかにし,IL-8発現抑制などを介して癌細胞の運動能を抑制している可能性を示唆できた.
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