研究概要 |
本研究は、口腔癌の転移機構をケモカインシグナルの観点から解析することを目的とする。本年度も前年度に引き続き、口腔癌臨床材料、口腔癌培養細胞およびヌードマウスに移植した口腔癌細胞のリンパ節転移および血行転移モデルを用いて、ケモカインおよびケモカインレセプター発現を免疫組織化学的、細胞・遺伝子工学的に検索し、以下の結果を得た。 1. 口腔扁平上皮癌の原発巣および転移巣に対して、ケモカインレセプターCXCR4、悪性度の指標としてCOX-2、血管新生因子VEGF-A、リンパ管新生をD2-40抗体で発現を調べたところ、転移を来した症例の原発巣は、転移のない症例の原発巣に比べ、いずれの因子も増強する傾向を示した。 2. 肺やリンパ節に高率に転移を来す腺様嚢胞癌16例について、CXCR4発現と組織型、転移能、予後との関連を調べた結果、CXCR4高発現症例で肺やリンパ節転移を認め、予後不良であった。また、充実型や転移を認めた篩状型でCXCR4強陽性であった。腺様嚢胞癌移植ヌードマウスモデルにおいても、腫瘍増殖や転移能の亢進に伴いCXCR4発現が増大し、組織型は篩状型から充実型あるいは未分化癌に変化した。 3. 全身に血行性多発転移をきたす下顎悪性線維性組織球腫(MFH)のヌードマウス移植モデルおよび培養細胞の樹立に成功した。細胞を移植したヌードマウスでは、腫瘍の形成とともに多発性肺転移を認め、移植した培養細胞には転移関連分子としてMMP7, MMP9, MT1-MMP, CXCR4, COX-2, integrinα4の発現亢進とMMP2, TIMP1の発現低下が認められた。 4. 腺様嚢胞癌および悪性線維性組織球腫のヌードマウス移植・転移モデルを用いて、現在CXCR4のアンタゴニストAMD3100投与による転移抑制実験を施行中である。 以上の結果から、CXCR4は口腔扁平上皮癌、腺様嚢胞癌の転移や予後ばかりではなく、悪性線維性組織球腫の転移にもCOX-2とともに深く関与していることが示唆された。
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