研究概要 |
近年,幹細胞を使用した再生医療が注目を集めている。歯髄中にも幹細胞が存在することが示唆されてきたが,ヒトの脱落した乳歯歯髄の中から発見された幹細胞(stem cells from human exfoliated deciduous teeth:SHED,以下SHED)の多能性を検討した。乳歯および上顎正中過剰歯の歯髄を採取し培養後,低接着性培養ディッシュを使用して神経幹細胞培養液で培養すると浮遊細胞塊が得られた。この細胞塊は培養神経幹細胞(Neurosphere)と形態が一致し,増殖が確認された。また,RT-PCRによりネスチンの産生が示唆され,神経幹細胞の存在が示唆された。さらにin vitroで分化させると,神経幹細胞のマーカーであるネスチンの抗体で陽性を示し,ニューロンのマーカーであるβ-チューブリン,アストロサイトのマーカーであるGFAPにも陽性反応を示し,神経細胞に分化することが示された。次に移植後の細胞を識別するために歯髄由来の浮遊細胞塊の培養液にBrdUを投与した後,マウス延髄小脳槽に移植を行った。移植2週間後,マウスを2%パラホルムアルデヒドで灌流固定後,脳切片を作製してBrdUの抗体にて免疫染色を行い移植細胞の生着を調べたところ,神経幹細胞が出生後も分裂を繰り返しており,特徴的なニッシェを持つ孤束核に多くのBrdU陽性細胞が確認された。これらの細胞をGFAPやニューロンのマーカーであるNeuNの抗体で染色すると局在が一致し,移植細胞が神経細胞に分化している事が確認された。今後は,移植した歯髄細胞の分化動態をさらに調べ,再生医療への可能性を明らかにする予定である。
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