研究概要 |
発音運動の中枢神経機構は、発音すべき音を想起する段階と発音に関連する末梢器官に運動指令を発する段階の2段階に大別される。近年、健常者において各段階における脳賦活領域が明らかにされてきている。一方、口唇口蓋裂(CLP)患者においては、脳賦活領域が健常者と異なることが示唆されているが、中枢神経機構のどの段階に差異があるのかは不明である。本研究では、非侵襲的脳機能画像法である機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、CLP患者と健常者の外言語・内言語生成時の脳賦活領域を比較し、CLP患者の発音障害について脳機能から評価することを目的とした。成人片側性(UCLP)および両側性CLP(BCLP)患者および口唇口蓋裂を有しない健常成人を被験者とした。代償性構音は、UCLP患者には認められなかったが、BCLP患者には認められた。1.5TのMR装置において、gradient echo型echo planar imaging法を用いて撮像を行った。音節は破裂音/ka/を用い、1)声に出さずに想起する(内言語;covert,C)、2)声に出して発音する(外言語;overt,0)の2課題を被験者に約1.5Hzの頻度で繰り返させた。安静と課題遂行を交互に繰り返すブロックパラダイムを用いた。これを1セッションとして、各課題につき2セッション行った。fMRIデータの処理および統計解析には、MatlabおよびSPM2を用いた。C課題においては、CLP患者と健常者における脳賦活領域に大きな差異は認められなかった。0課題においては、UCLP患者の脳賦活領域は健常者と類似しており、一次感覚運動野および小脳の賦活が認められた。一方、BCLP患者ではそれらの領域の賦活は認められず、呼吸制御に関連した領域に賦活が認められた。0課題におけるBCLP患者の脳賦活パタンから、代償性構音とそれに伴う呼吸制御の関連が考えられた。以上の結果から、CLP患者の発音運動に関連する中枢神経機構を健常者のそれと比較すると、想起段階には差異がないものの、遂行段階に差異があることが示唆された。この背景には、感覚入力・運動出力の差異、代償性構音の種類や程度など多様な要因が関与していることが推測される。
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