研究概要 |
構音に関連する中枢神経機構は、想起段階と末梢構音器官の駆動段階の2段階に大別され、それぞれの段階で生成される言語を内言語(covert:C)および外言語(overt:0)と呼んでいる(Levelt,1989;本庄,1997)。一方、構音障害を有する口唇口蓋裂(CLP)患者においては、健常者と比較して、脳賦活領域が異なる(Shinagawa, et. al.,2006)とともに、MRI動画法を用いた構音器官運動記録に差異が認められた(Sato-Wakabayashi, et. al.,2008)。しかし、上述の中枢神経機構のいずれの段階に差異があるのかは不明であった。本研究では、術後成人CLP患者[片側性(UCLP)および両側性(BCLP)]および健常成人を被験者とした。1.5テスラMR装置を用いて、破裂音(軟口蓋音/ka/)を1.5Hzで繰り返すブロックデザインでC課題、0課題を各2セッション行いfMRIデータを採得した。データ解析にはSPM2(UCL Institute of Neurology,UK)を用いた。その結果、C課題においては健常者、UCLP患者、BCLP患者ともに運動前野の賦活が共通して認められた。一方、0課題においては、健常者およびUCLP患者では運動前野、一次運動野および小脳が賦活したのに比べて、BCLP患者ではそれらの領域の賦活は認められず、代わりに後部帯状回の賦活が認められた。以上のことから、CLP患者の発音運動に関連する中枢神経機構を健常者のそれと比較すると、想起段階には差異がないものの、遂行段階に差異がある場合があることが示唆された。この背景には、裂型、感覚入力・運動出力の差異、代償性構音の種類や程度、言語治療の時期や効果など多様な要因が関与していることが推測された。
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