研究概要 |
下顎頭軟骨の吸収を伴う変形性顎関節症(OA)は、運動障害や機能障害を伴う歯科臨床において最も治療が困難な疾患のひとつである。その原因として下顎頭に加わる機械的負荷がOA発症のkey factorと考えられている。一方、生理的な条件下においてもOAが進行する場合があることから、未知の新規因子が機械的負荷との相乗作用により軟骨破壊に関与しているものと推察される。下顎頭は表層から線維層、軟骨層そして骨層に分けられ、それぞれが異なる機能を持って、下顎運動により生じる機械的刺激に応答している。表層は潤滑作用を有し、摩擦力に対応し、最下層の骨組織は上層の組織を強固に支持している。各層における代謝異常の発生機序を明らかにすることは、下顎頭軟骨破壊機序を明らかにする上で重要であると考える。我々は、H18年に、下顎頭軟骨の表層(線維層)において高い境界潤滑作用を発揮するSuperficial zone proteinの発現を確認し、その発現レベルはサイトカインにより選択的に制御され、また機械的負荷の種類や強さによって反応が異なることを明らかにした。本研究では、下層(軟骨下骨層)に着目し、その代謝異常が、近接する軟骨に及ぼす影響を検討した。ブタ下顎頭におもりを落下させ衝撃力与え、免疫染色により生化学的検索を行った結果、IL-1βの発現が特に軟骨下骨層に認められた。次に、軟骨下骨由来骨芽細胞と軟骨由来軟骨細胞の共培養を行い、軟骨-軟骨下骨間における生化学的な相互関係の検討を行った。過度な負荷を加えた骨芽細胞と共培養した軟骨細胞のMMP-1,3,13の遺伝子発現は亢進が認められ、II型、X型コラーゲン、アグリカン遺伝子発現は減少し、DNAおよびプロテオグリカン合成能についても減少が認められた。これらのことより、外部からの衝撃による下顎頭への侵襲は、軟骨下骨からIL-1βを誘導させた。また、軟骨下骨からの遊離したサイトカインは、軟骨の細胞外基質の破壊や増殖能を低下させ、軟骨破壊の引きがねや進行に深く関与することが強く示唆された。
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