研究概要 |
本年度は,口腔健康度を規定する要因の一つと考えられる口臭と歯周病を対象とし,呼気中の物質,唾液中の生化学物質および生活習慣に含まれるリスクファクターとの関連性を調べた。 口臭と呼気との関連性を調べるため,病的口臭患者55名,対照群65名の計120名を対象とし,総臭気指数,官能検査値および揮発性硫化物濃度を用いて口臭の評価を行い,口腔保健要因については,歯周病有病歯,舌苔スコアおよび歯垢指数を用いて評価した結果,患者群では,対照群に比して,硫化水素,メチルメルカプタン,アンモニア,トリメチルアミン,プロピオン酸,ブチルアルデヒドおよび酢酸ブチルの臭気指数が有意に高い値を示した。また,総臭気指数は,硫化水素,メチルメルカプタン,アンモニア,トリメチルアミンおよびブチルアルデヒドにより有意の寄与を受け,官能検査値もほぼ同様の結果が得られ,その決定係数はそれぞれ0.83と0.64であった。各口臭評価値と口腔保健要因との関連性については,総臭気指数は舌苔スコアおよび歯垢指数と有意の関連性を認め,官能検査値やガスクロマトグラフによる揮発性硫化物濃度も両要因と関連していた。しかし,歯周病有病歯率は官能検査値とのみ有意の関連性を認めた。 歯周病進行と生活習慣との関連性および喫煙の唾液炎症マーカーや歯周病細菌に及ぼす影響について,大阪府下某企業で行われた社内健康診断受診者219名を対象とした解析を行った結果,喫煙および不良な睡眠時間は独立して有意に歯周病進行と関連性を持ち,オッズ比はそれぞれ2.3と2.1であった。また,喫煙が歯周病進行に及ぼす集団寄与割合は37.2%であり,生涯喫煙量と歯周病進行には有意の量反応関係を認めた。これらのことから,喫煙は歯周病進行に関する最も強いリスクファクターであることが明らかとなった。また,喫煙状態は,歯周病細菌との間に関連性はみられなかったが,PGE2,ラクトフェリン,アルブミン,AST,LDHおよびALPについては,喫煙者は非喫煙者より有意に低い値を示した。これらの結果から,喫煙は炎症反応を含む生体防御機構を抑制している可能性が示され,このことが歯周病進行に影響すると考えられた。 以上の結果より,口臭および歯周病と関連性の強いリスクファクターが明らかとなった。次年度は,口腔健康度の総合指標の確立およびリスクファクターを用いた口腔健康度変化の予測を計画している。
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