研究概要 |
本研究は脊髄損傷者の社会生活での移送動作のプログラムを作成する目的で移動動作の現状を調べた.質問紙による調査では,社団法人全国脊髄損傷者連合会の近畿・東海ブロック会員734人を対象に実施した.地域で生活する脊髄損傷患者の受傷後経過年数,損傷レベル,外出時の心配点,身体症状,住居の状況などを調査した.その結果,回収数は295名であった.性別は男性84.0%,女性16.0%,年齢は平均56.2±13.1歳,受傷後経過年数平均は21.6±12.5年で,損傷レベルは頸髄28.0%,胸髄56.7%,腰髄14.9%,仙髄0.3%であった.脊髄損傷者は,外出に際して排泄行動,褥瘡,段差などから生じる移動上の困難を心配し,駐車場の確保やトイレの整備だけでなく入院中および退院後の指導のニーズを持っていることが明らかとなった.身体症状は多様であり,加齢による変化,肩の痛みや筋力の低下などであった.特に高齢になると加齢による身体の衰えを危惧する傾向が明らかとなった.これらから高齢者に合わせた支援が必要であり,移動動作を妨げる身体症状の課題が示唆された.居宅の状況において,男性は自分で工夫し改造していたが,女性は男性に比べて改造していない傾向が見られ,住環境の整備における支援の必要性が確認できた. 一方,質的調査では男性脊髄損傷者を対象に社会生活における困難点について面接した.胸腰髄損傷者の概要は,平均年齢は54.0±13.2歳,受傷後の平均経過年数は14.8±11.5年でADLの平均得点は76.0点,GWBSの平均値は75.2であった.体験している困難として,『家庭生活を送る上での移動動作』『社会生活を送る上での移動動作』『障害との向き合い方』『人間関係の重要性』『排泄管理の重要性』の5つのコアカテゴリーが抽出された.また,男性頸髄損傷者の概要は,平均年齢は40.3±6.8歳,受傷後の平均経過年数は17.2±7.0年で,ADLの平均得点は60.8点,GWBSの平均値は81.8であった.困難は,胸腰髄損傷者と同じで,頸髄損傷者のみに6つめのコアカテゴリーである『障害に伴う更なる身体上の問題』が抽出できた.
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